2020年12月10日木曜日

太古からの光景



太古から受け継がれている光景があるとするならば、
きっと今見ているのはそんな光景の一つ。

湖面をうめ尽くしていた鳥たちは日の出と共にわらわらと飛び立ち、朝焼けの空を覆い始めた。
バックの景色が霞むほどの数の鳥が視界をうめてゆく......


圧倒的な目の前の光景に興奮しながらシャッターを切り続けた。
鳥同士よくぶつからないものだなぁ〜、そんなことを考えている自分が可笑しかった。

大昔から鳥たちが繋いできた生命活動。この時期で10万羽を超えるマガンの数がカウントされている。鳥たちは秋の終わりに北極地方を発ち、長い旅を経て毎年この水面で冬を過ごしてきたに違いない。体ひとつで数千キロを旅するそのメカニズム、生命力には感動する。


もっとも数が多いのはマガン。群れに混じって、ヒシクイ、オオヒシクイ、ミコアイサ、マガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、オオバン、カイツブリ、etc、様々な種類の水鳥、雁や鴨、数種類のサギ、コハクチョウ、オオハクチョウたちが混ざり合い大群をなしている。


夜を過ごす群れ。
暗闇の中で、ちょっとした刺激や動物の影が走ると群れはパニックになり騒然となる。



夜が明けると群れは一斉に田んぼなどの餌場へと向かう。
陽の光に照らされた翼の音がヒュンヒュンと響き、鳴き声と重なり和音となる。



よく響く大きな声で鳴きながら飛ぶオオハクチョウ。
この地域は日本最大のオオハクチョウの越冬地でもある。その数は三千羽と言われる。


サギもまたこの沼の住人。
すごい数のマガンが多くの水面を占領する中で、サギたちは少し迷惑そうな感じで湖の隅の方に陣取っていた。



猛禽ノスリはすきあらばと水鳥を狙っている。



小さな猛禽、モズ。


オナガガモの英名は Northern Pintail ピン!との伸びた尾羽が特徴。 



朝陽を浴びて飛翔するマガン。家族や親戚という単位で群れをなしている。



キンッと冷えた空気の中。少しだけ欠け始めた月をバックに飛ぶ。



大群が飛び去ると途端に静かになる湖面。凍った岸辺に水滴のついた羽が落ちていた。



気候変動が取り上げられ、目まぐるしく自然環境も変わってゆく現代。そんな中でも太古の昔から綿々と続く野生の鳥たちの大移動。

こんな光景が見られることを素敵なことだと思う。

2018年9月30日日曜日

北へ

AM5:00 にセットしてあったアラームは鳴り出す前に止めた。
遠足当日の子供のような感覚で1時間も早く目が覚めてしまった。
全ての荷物は前日に積み込んであったので服を着替え、静かにドアを出る。

北へ向かえることで胸の高鳴りをとめることはできなかった。
アクセルを踏み込む足には自然と力が入り、850kmの距離はあっという間、夕方にはもう駒ケ岳を望む大沼のキャンプ場にいた。

北海道は僕にとって心の場所。
大学時代と卒業後もしばらく暮らしていたし、その後も毎年通っていた。

この地に立つことで原点回帰となる。

まだまだ暑い関東地方から訪れたその場所は既に秋の気配、さらに標高をあげれば秋真っ只中。山頂には雪さえある。
冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、落ち着いた気持ちになれる。

逢いたかった動物たちは、冬に向けどことなくせわしく動いているようだった。



神々の遊ぶ庭

十数年ぶりに目にした懐かしい風景。
夏も、秋も、そして冬にもこの山には登った。


紅葉の中のナキウサギ


ガンコウランの実を頬袋にため込むシマリス


イイズナはシマリスを追いかけまわしていた


冬を越すための餌を蓄えるのに忙しいナキウサギは岩場を走り回る


霧のない摩周湖


野付半島先端


隠れた岩場でひっそりと水を落とす男の涙


森の中の若い雄鹿


柱状節理の岸壁にはオジロワシ


魚を獲るシマフクロウ


ヒグマは丘の下を流れる川を遡上する鮭を見ていた

ここ数年は、なんとか北海道を訪れることができている、が、いずれも数日間。以前のように数ヶ月単位であちこち回りながらキャンプをしてじっくりと動物たちの姿を撮影したいものである。

滞在を1日延ばしてしまった知床で、なんとか熊の姿を見ることができた後、一気に1,700kmを走り自宅へと戻ったのでした。

2018年7月16日月曜日

「京都場」ーKYOTO baー



京都での写真展が終わりました。

関西では初めての個展でした。

大正時代に建てられた引き染め工場。取り壊される寸前だったという建物を友人の建築家がギャラリーに改装したその場所の名は「京都場」。ギャラリーとなって1年が経ち、数々のアートの展示が行われています。古い建物ではありますが、新たな命が吹き込まれ、むしろ、今の時代に合う、お洒落で雰囲気の良いギャラリーです。

数年ぶりに展示することができた自分の写真パネルを見て、再び海外での撮影意欲が湧いてきました。

二度のスライドトークを開催させていただき、幼稚園生や多くの子供たちの来場があり、遠くはカナダからの友人も、鳥取県から日帰りで来ていただいた方、関東からもわざわざ来てくださった方々、皆様に心よりお礼申し上げます。


写真展の機会を与えてくれた友人たち。
京都場、館長様。
お越しいただいた皆様、ありがとうございました。

新たな一歩をふみ出せた、そんな気がします。

2018年4月25日水曜日

京都写真展開催



京都市内で写真展を開催いたします。

日時:5月19日(土)〜7月8日(日)

久しぶりの写真展です。関西方面では初めての写真展です。
皆様お誘いあわせの上、ぜひ、お越しいただければと思います。

京都場
http://kyoto-ba.jp/exhibition/toru-sonohara-photographic%EF%BC%8Fwork-in-the-wildness/

2018年3月6日火曜日

ドッグマッシャー・今野 道博 _Michi Konno_

3月3日。

アンカレッジ〜ノームへと続く1600キロに及ぶ犬ぞりレース、アイデタロッドがスタートした。

アラスカに暮らしている友人、今野道博が今年、エントリーをした。
スプリントの犬ぞりレーサーだった彼は、1998年オープンノースアメリカのスピードレースで世界チャンピオンとなる。日本から参戦した彼は、現地で犬を借りて即興で作ったチームで見事優勝した。新聞には一面に、レンタカーでインディ500に優勝したようなもんだ!と紹介されルーキーを讃えていた.....

初めてアラスカを訪れた30年前、アンカレッジではちょうどアイデタロッドのスタートだった。ダウンタウンはスタートを見ようと詰め掛けた人々で溢れ、興奮する犬の吠える声で厳冬期だというのに辺りは熱気で包まれていたことを覚えている。



2003年、オープンオースアメリカを走る今野道博(Michi Konno)

道さんとの出会いは20年ほど前にさかのぼる。フェアバンクスでオープンノースアメリカのレース初日、撮影をしている時にお互いの知り合いだった冒険家の船津敬三さんに紹介された。
その後、数年の時を経て、ガイドの仕事でアラスカを訪れた時に現地ガイドとして現れたのが彼だった。そしてガイドの仕事を共に、さらには共通のスポンサーを持ったことで僕が道さんの出場するレースの撮影を担当することになった。

いつかアイデタロッドに出場する。あの頃、よくそんな話をしていた。


彼のアラスカのホームでもあるマンリーのレース。


犬命の彼。過酷なレース中でも、ふと、優しい表情を見せてくれることがあった。


世界チャンピオンのトロフィーに刻まれた MICHI KONNO の名。


本当は彼がすべてを賭けたこのレースを撮影に行くはずだった。でも、事情により現地に足を運ぶことが出来なかった。久しぶりに大きな後悔となったが、魂だけは現地に送っている、もしも、道さんの橇が荒野の何処かでスタックしたら、僕の魂がほんの少しでも橇を押す力になると信じている。


レースに向かう道すがら、いつも彼のドッグトラックを後ろから見ていた。厳冬のアラスカの荒野をゆく「侍魂」の二文字が刻まれたピックアップに、熱い男のロマンを感じていた......

レースの勝敗などどうでもいい、いくつになっても夢だけで生きている、そんな姿を見せ続けてほしい。


2018年2月6日火曜日

寒波の中で


日本列島上空の寒波。
各地でこの寒波がもたらした雪や凍結に伴う多くの出来事がニュースとなって騒がれています。

観測至上、何十年ぶり。などといった言葉をよく耳にする今年の冬は、確かに例年にない寒さかもしれません。

我が家でも室外給湯器が連日の凍結。
お湯の使えない朝を過ごすことが多くありました。

しかし、これが本来の冬というものの姿。
冬を冬として季節を感じるのは決して悪いことではありません。

ということで、冬を感じるために山間部へと出向きました。
もともと寒いところ好き、氷や雪を見ると犬よりもはしゃいでしまう僕なのです。

一度訪れてみたかった凍る滝。
辺りは一面、すばらしく凍り付いておりました!


水分→寒波→凍結


凍+雪=美


滝+氷+雪+にっぽんの風景=侘び寂びの景色


雪の中のオオマシコ。


雪の上のヒガラ。


ふわっ、と丸くなった雪だるまのようなシジュウカラ。



雪景色をバックに萩の実をついばむ真っ赤なオオマシコ。
数種の小鳥の中でもこの赤には特に目を魅かれます。

雪と氷に包まれたマイナスの気温の中でも飛び回る小鳥たち。
野生に生きる生物の強さを感じます。

寒いということは、確かに厳しいことかもしれません。
けれど、その厳しさが風景を美しく、生き物を強くしているのでは? 
寒さの中で生物は命の炎をより強く燃やして生きているように感じます。

侘び寂びのにっぽんの冬。

寒いがゆえに目にすることのできる風景と、寒さの中でも活き活きとした鳥たちの姿に少し、心があたたかくなりました。

2018年1月28日日曜日

雪景色の再会


本州を広く覆った寒波。
ここ関東地方にも大雪警報が発令され30センチを超える積雪がありました。交通は麻痺し、あちこちで水道管が破裂、道路は凍結、怪我をされた方も多かったようです。そんな中、不謹慎ではありますが雪好きな僕は雪の世界を見ながらワクワク♪しておりました。

雪を見ながら想うのはやはり北国。
虚ろな目付きで、北海道やアラスカの雪原を妄想しておりました。
今年はスノボにも行けておらず、ノーマルタイヤ。とりあえずタイヤでも替えておこうかと雪の中でスタットレスに交換。少しづつ厚みを増してゆく雪。刻々と白に変わる景色......

夜になり、ふと気になったのがフクロウのこと。
冬になると日本のあちこちに大陸から渡ってくるコミミズクのことが頭をよぎりました。

一番好きだった鳥。...... 雪景色の中でその姿が見たい。

毎年、北極圏でその姿を目にしていました。
それはツンドラの緑の大地でのこと。コミミズクは夏の間、繁殖の為に北極圏で過ごすのです。動物を探し夏のツンドラを歩き回る中で必ずコミミズクに出逢っていました。
愛嬌ある瞳。首をかしげる仕草、日本へと旅すること。このフクロウには僕を好きにさせる多くの要素がありました。

翌朝、スタットレスに履き替えた車にカメラを投げ入れると目撃情報のあった近くの河川敷へ。フクロウの好きそうな地形や現れそうな場所をチェックしながらしばらく車を走らせていると、目に飛び込んできた懐かしい羽搏き。車を止め、双眼鏡を向けると。そこにはコミミズクが  ♡

 冷気が溜まる白い空気の中には獲物を探してパタパタとフクロウ独特の羽ばたき。雪の中、車を停めカメラをセット。辺りは白一面の世界、まるで北国の風景。



雪原に影を落とし、音もなく飛ぶ姿は美しい。



愛嬌のある顔つきとはうらはらに、カシラダカを貪る。
獲物の多くはネズミだが積雪時には鳥を獲ることも多い。

むしり取った羽が少し残っただけで、脚も、骨すらも丸呑み。
"うまいっ!" そんな感情が伝わってくるような野生の表情。


撮影中、足元に現れたニホンイタチ。
コミミズクの餌食にもなるが凶暴なイタチをそう簡単には捕獲することはできない。



恰幅のいいマダムの雰囲気を漂わせる個体。

久々に再会した彼女は長い年月の後、たくましい人に変わっていた...
などと、最後に逢ってから数年。感動の想いで目の前に存在するコミミズクを撮影し続けていました。


真っ白い風景の中、興奮する鳥との出逢いに幸せなボク



冬になる度に気になっていたが、ようやく出逢うことができたコミミズク。

雪景色の中で昔の恋人にでも再会したような気持ちになったこの三日間の撮影は、とても充実した時間でした。